数字が嘘とは限らない。問題は、定義と出典が書かれていないことだ。 分母が何か、いつの期間か、誰が測ったか。この3つがない数字は、比較にも意思決定にも使えない。
出店判断で本当に効くのは、宣伝された成長率ではなく、自社の条件で計算できる数字になる。魅力的な数字は関心を作るための入口で、判断材料ではない。関心を持ったら、自分の条件で計算し直す。 この一手間が、新規市場での成否を分ける。
結論
- 魅力的な数字は関心を作る入口にすぎない。分母・期間・出典の3点が揃わない数字は判断に使えない。
- 購入経験者か全登録者かで購入回数は変わる。どちらか分からない数字は社内資料に載せない。
- 広告記事は市場の存在を知るために読み、採算は公的統計や手数料表と突き合わせて自社で計算する。
まずやること
- 気になった数字の分母・期間・出典の3点を確認する
- その数字が広告記事かどうかを、署名と申込リンクで見分ける
- 自社の条件(価格帯・出荷形態・カテゴリ)で計算し直す
- 出店可否は、自社試算の営業利益で決める
よくある3つの数字と、その読み方
どれも「あり得る数字」だ。 ただし、そのまま自社に当てはめると判断を誤る。
| 数字の例 | 引っかかりやすい点 | 確認すること |
|---|---|---|
| 年間購入回数37回 | 分母が全登録者か購入者か | 購入経験者に絞れば回数は上がる |
| 利益率が欧米より20%高い | 個社の事例か平均か | 絶対値か相対値か、条件は何か |
| 認知度85%・リピート80% | 調査主体・対象・時期が不明 | 質問文と対象者の定義 |
「購入経験者の年間購入回数」と「全登録者の年間購入回数」は、まったく別の指標だ。前者は必ず大きく出る。どちらを指しているか分からない数字は、社内の資料に載せないほうがいい。
数字を見たときに確認する4点
数字の確認手順
- 01分母は何か率や平均は分母で決まる。未記載なら保留
- 02いつの期間か急成長市場では半年前の数字が古い
- 03誰が測ったか自社調べか第三者調査か。原本を確認
- 04自社に当てはまるかカテゴリ・価格帯・出荷形態が同じか
4点目が最も見落とされる。同じカテゴリでも、価格帯と出荷形態が違えば採算は変わる。 月販1,000個の事例は、月販50個の自社には再現しない。
広告記事の見分け方
出典がプラットフォーム自身の記事には、特徴がある。末尾に「(来源:提供元名)」と書かれている、本文中に申込リンクが繰り返し入る、事例がすべて成功例の3つだ。
これは記事の価値を否定する話ではない。読む目的を変えるという話だ。集客記事は「市場の存在」を知るために読み、採算の判断は別の材料で行う。
一次情報を先に取る
判断の材料は、宣伝記事の外にある。公的統計、業界団体の調査、プラットフォームが開示する規約や手数料表が一次情報になる。
たとえば市場規模なら、経済産業省の電子商取引実態調査のような統計が使える。手数料なら、プラットフォームの公式ヘルプに記載がある。宣伝記事に書かれた数字は、この一次情報と突き合わせて初めて使える。
突き合わせで数字が食い違ったら、定義の違いを探す。多くの場合、どちらかが間違っているのではなく、分母や期間が違う。そこが分かれば、自社に近いほうを選べる。
自社条件で計算し直す
数字を自社に置き換える式は、これ1本で足りる。営業利益 = 売価 − 原価 − 販売手数料 − 物流費 − 広告費 − 返品コスト。
たとえば売価3,000円、原価900円、販売手数料15%、物流250円、広告費300円、返品率5%(1点150円)なら、営業利益は約150円。利益率5% になる。広告費が50円上がるだけで、ほぼ消える。
この式に当てはめた瞬間、宣伝されていた成長率は判断材料から外れる。 残るのは、自社の数字だけになる。
よくある質問
プラットフォームが出す数字は、何を確認すれば使えるか判断できますか?
分母・期間・出典の3点が書かれているかを見ます。1つでも欠ける数字は比較にも意思決定にも使えません。
購入回数の数字が高く見えるのはなぜですか?
分母が購入経験者に絞られている可能性があります。購入経験者の回数は必ず大きく出るので、全登録者の値とは別の指標です。
営業利益はどう計算すればいいですか?
営業利益は売価から原価・販売手数料・物流費・広告費・返品コストを引いて出します。売価3,000円の例では約150円、利益率5%です。
まとめ:今週やること
数字を判断材料にする手順
- 01分母・期間・出典を確認する3点セット
- 02広告記事かを確認する署名と申込リンク
- 03自社条件で営業利益を計算する式に当てはめる
- 04感度を見る広告費・返品率を動かす
- 05出店可否を決める自社試算だけで判断
市場ごとの採算試算は、サービスページで相談できます。
※数字の出典:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/