「少額なら関税を取らない」という枠が、越境ECの直送モデルを支えてきた。2026年に入って、その前提が各国で同時に崩れている。 EUとタイは廃止済み、インドネシアとインドは実質的に枠がない。ベトナムは引き下げの案が意見公募中だ。並べると、方向は同じである。
直送の競争力は、安さより「通関を簡素に済ませられること」にあった。 枠が閉じると、品目分類・納税者の登録・申告データの整合性が常に問われる。事務コストと、間違えたときのリスクが同時に上がる。今日やることは、仕向国を棚卸しし、当たる国から着地コストを計算し直すことだ。
結論
- EUは2026年7月1日に150ユーロ枠を廃止し、HS6ごとに3ユーロの暫定定額関税がかかる。
- まず仕向国を「閉じた国」「案の国」「枠がほぼ無い国」に振り分け、年間の出荷件数を出す。
- ベトナムの10万ドンは政令案で未成立。基準値は現行の100万ドンに固定し、案は別列で持つ。
まずやること
- 仕向国を「閉じた国」「案の国」「枠がほぼ無い国」に振り分け、年間の出荷件数を出す
- ベトナムは100万ドン(現行)と10万ドン(案)の両方で着地コストを試算する
- HS6(関税上の品目分類の6桁コード)ごとに1件あたりの追加コストを積む
- 直送と現地倉庫一括の2案を、同じ物量・同じ期間で並べる
どこが閉じて、どこが残っているか
国・地域ごとに並べる。
| 国・地域 | 元の状態 | 変わる点 | 実務での対応 |
|---|---|---|---|
| EU | 150ユーロ以下は関税免除 | 2026年7月1日に廃止。HS6の品目ごとに3ユーロの暫定定額関税。2028年7月1日に通常関税へ移行予定 | 荷物ごとに分類数を数える |
| タイ | 1500バーツ以下の免税枠 | 2026年1月1日に撤廃済み | 送り状と価額を突き合わせる |
| ベトナム | 郵便・速達は100万ドン(約38ドル)まで免税 | 10万ドン(約3.8ドル)への引き下げを含む政令案を意見公募中。未成立 | 現行と案の両方で試算する |
| インドネシア | 3ドル以下のみ免税 | 変化なし(枠はほぼ無い) | 少額でも関税がかかる前提で原価に入れる |
| インド | ECで海外から直接買った商品に免除枠なし | 変化なし | 直送の前提が成立しない国として扱う |
「閉じた国」「案の国」「そもそも枠がほぼ無い国」の3段階に分かれる。 EUとタイは施行済みで、もう戻らない。ベトナムは成立するかも時期も決まっていない。インドネシアとインドは前提が違う。施行済みは「上がった後の設計」、案は「上がる前の備え」、枠が無い国は「最初から別の入り方」だ。3段階を混ぜると、順番を誤る。
増えるのは税額ではなく、通関の手間
枠が閉じたと聞くと、まず税額を計算したくなる。だが実際に重いのは、毎回の通関で判断と確認が要る仕事が増えることだ。直送は、通関を簡素に済ませられること自体が競争力だった。
| 確認する項目 | 中身 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 品目分類(HS6) | どの商品を、どの6桁の分類で通すか | 似た商品を別々の分類で通すと、1件あたりの額が読めない |
| 納税者の登録 | 誰が輸入者として申告するか | 主体が決まっていないと、止まったときに動けない |
| 申告データの整合性 | 送り状の品名・数量・価額 | 取引価額と送り状の額がずれると、修正のやり直しになる |
3つは連動する。 分類が決まらないと納税者の整理もできず、納税者が決まらないと申告データの責任者も決まらない。最初に固めるのは分類だ。
ベトナムは「案」だ。価格表に書く前に確かめる
ベトナムは数字だけが先に流通している。10万ドンという数字は財務省の政令案で、成立していない。 商用の配送情報サイトでは現行の100万ドンのまま掲載し続けているものもあり、市場の情報は割れている。
この状態で価格表を書き換えると、二重管理になる。 案を基準値にすると、成立しなかったときに戻す作業が要る。無視すると、成立した日に見積もりが一斉にずれる。基準値は現行の100万ドンで固定し、案は感度分析用の別列で持つのが安全だ。
判断の基準は「法令化されたか」に置く。意見公募は案を出す段階の手続きで、その後に公布と施行日が来る。公布と施行日が確認できるまでは、案を社内の基準にしない。 なお現行の100万ドンは郵便・速達の枠として示されている。ほかの送り方の扱いは、この材料からは確認できていない。
なぜベトナムは枠を残すのか
ベトナム財務省は、低価額品への免税を続けることに支持していないと明言している。それでも完全撤廃ではなく、引き下げを選んだ。同国が京都規約(Kyoto Convention)の締約国で、輸出入税法にも免税の規定が残っているためだ。制度を一度に消せないので、段階的にしか動けない。
税目ごとに閉じる時期がずれる点も見ておきたい。 ベトナムは2025年2月18日施行のDecision 01/2025/QD-TTgで、速達輸入の100万ドン未満に対するVAT(付加価値税)の免除をすでに廃止している。今回の案が通れば、関税の側も閉じる。順番はVATが先、関税が後だ。コスト表も税目ごとに列を分けないと、片方の反映を忘れる。
直送と現地倉庫、損益分岐点はどこで動くか
少額・多頻度の直送で回してきた事業ほど、設計の見直しが要る。 現地倉庫にまとめて入れる方式との損益分岐点は、これまでとは違う位置に動いているはずだ。
- 1件あたりの暫定定額関税 = 3ユーロ × 荷物のHS6分類数
- 年間の追加コスト = 1件あたりの額 × 年間の出荷件数
- 現地倉庫案の1個あたり = ロットの輸入諸費用 ÷ 数量 + 保管・入庫・移動・売れ残り
課金の単位が個数ではなく分類だという点が効く。 同じ分類をまとめれば回数は増えない。分類をまたぐ同梱ほど、1件あたりは重くなる。送料無料のしきい値を上げるほど、固定額も積み上がる。
期限も入れておく。暫定定額関税は2028年7月1日に通常の関税へ移る予定だ。いまの3ユーロは通過点だ。 見積もりは「いま」と「2028年7月以降」の2段で持つ。
着地コストを計算し直す順番
- 01仕向国ごとに年間の出荷件数を出すまず物量を確定させる。
- 02荷物あたりの分類数を数えるHS6がいくつに分かれるか。
- 031件あたりの追加コストを積む暫定定額関税は分類数で決まる。
- 04現地倉庫案の固定費を月割りする保管・入庫・移動・売れ残りを含める。
- 05同じ期間で2案を並べる比例する費用と固定の費用をそろえる。
誰が、何を、いつ確認するか
担当が分かれていると、この作業は止まりやすい。 4つの役割に分けて、持つ情報を決める。
- 商品担当は、HS6の候補を1商品につき1つに絞る。候補が複数あると計算が合わない
- 物流担当は、仕向国ごとの送り方と、通関で誰が輸入者になるかを決める
- 経理担当は、納税者の登録と、送り状と申告データの付け合わせを回す
- EC運用担当は、価格表とカートの組み方を持ち、同梱のルールを決める
決めるのは物流担当だが、影響を最も受けるのはEC運用担当だ。 分類をまたぐ同梱をやめれば1件あたりは下がるが、送料無料の設計は変わる。
国ごとの話として追うと、どれも遠い国の話に見える。だが自社の出荷実績に当てはめると、当たる国はたいてい1〜2か国に絞られる。 全部を同時に直す必要はない。
よくある質問
少額免税の枠はいつ閉じた?
EUは2026年7月1日、タイは2026年1月1日に廃止済みです。ベトナムは10万ドンへの引き下げ案が意見公募中で、まだ成立していません。
EUの関税はいくらかかる?
HS6の品目ごとに3ユーロの暫定定額関税です。2028年7月1日には通常の関税へ移る予定です。
直送と現地倉庫、どっちが安い?
着地コストを同じ物量・同じ期間で並べて比べます。課税は個数ではなくHS6の分類数で決まる点に注意してください。
まとめ:今週やること
今週やること
- 01仕向国ごとの出荷件数を1年分そろえる実績の集計から始める。
- 02施行済みの国から着地コストを計算し直すEUとタイが起点になる。
- 03HS6の候補を1商品につき1つに絞る分類がぶれると計算が合わない。
- 04ベトナムは現行と案を別の列で持つ基準値は現行の100万ドンに置く。
- 05分類をまたぐ同梱のルールを見直す固定額と送料無料の綱引きを確認する。
※数字の出典:https://vietnamnews.vn/economy/1799240/ministry-proposes-lowering-tax-exemption-threshold-to-vnd100-000-for-imports-amid-e-commerce-boom.html