2026年10月、Amazonはセラー向けに米国の通関ルール変更に関する注意喚起を送った。米国政府が大統領令14411(Strengthening Customs Enforcement)に基づいて登録輸入者(IOR)の定義と要件を見直しており、外国の輸入者向けの新規則が早く施行される可能性がある、という内容だ。
大統領令は2026年6月3日に署名され、連邦官報には6月10日に掲載された(91 FR 35125)。9月25日には、米国土安全保障省(DHS)が施行規則を暫定最終規則(Interim Final Rule)の形で行政管理予算局(OMB)に送っている。暫定最終規則は、官報に掲載されれば意見募集を経ずに即日発効し得る。
本稿執筆時点(2026年10月20日)で官報掲載は確認できていない。だが、準備のタイミングは「出てから」ではない。何が決まっていて、何がまだ決まっていないのかを整理する。
結論
- 大統領令14411で米国輸入者の定義が狭まり、外国IORは簡易通関と継続保証が使えなくなる。期限は2026年11月30日。
- まず自分の荷ごとにIORが米国事業者か海外事業者かを確認し、回答を通関業者から書面で残す。
- 見落としやすいのは、米国法人を作っても支配的受益者が米国市民・永住者でないと米国IORに当てはまらない点。
何が起きているのか
Amazonの通知は、セラーに3つを求めている。①自分のIORが米国事業者か海外事業者かを確認する、②海外IORなら、新要件(資産・保証金・事業継続性)への準備を通関業者に確認する、③不明なら選択肢を今のうちに検討する。通知は「本日時点で変更はなく、現在の輸入業務は通常通り」とした上で、備えを促している。
背景にあるのは大統領令14411だ。6月3日に署名され、DHSとCBPに対して輸入者の適格性(eligibility)に関する規則・ガイダンス・運用の見直しを指示している。主な期限は次のとおり。
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 署名から90日(9月1日) | 罰則の減免基準の見直し(評価額の50%以上の下限)、押収・処分の迅速化など |
| 署名から180日(11月30日) | IORの適格性規則の見直し、good standing要件、IOR登録の更新、強化された審査 |
| 署名から1年(2027年6月3日) | 大統領への効果報告 |
すでに始まっていること
規則の公開を待たずに、執行は始まっている。
- 2026年7月16日 CBPがACEに「Inactive for Entry Purposes(通関に使えない状態)」ステータスを導入
- 2026年8月13日 CBPがCTPAT認定ブローカーへ通知。外国の輸入者顧客に対する追加の審査を求める
- 2026年9月18日 CBP Form 5106の情報が不正確なIOR番号を即時に無効化(実施中)
- 2026年9月2日 サプライチェーンの可視化・開示強化に関するANPRM(意見締切は12月1日)
- 2026年10月8日 低額貨物の通関に関するNPRM。2,500ドル以下の簡易通関にボンド要件を課す案など(意見締切は12月7日)
「まだ何も変わっていない」は、通関の現場では正しくない。番号の無効化は始まっており、次の規則は意見募集なしで来る可能性がある。
何が変わるのか:定義と要件
大統領令の核は、「米国の輸入者」の定義を狭くしたことだ。
| 区分 | 定義(大統領令の本文より) |
|---|---|
| 米国のIOR | 個人は米国市民・永住者。法人は米国法に基づき設立され、米国に所在し、支配的受益者が米国市民・永住者であること。または米国に相当の不動産を所有すること |
| 外国のIOR | 上記に当てはまらない輸入者 |
「米国に所在する」の基準も厳しい。①米国に主たる事業所がある、②米国で重要な事業活動を行う物理的な拠点がある、③事業規模に見合った十分な有形資産が米国にある、の3つが最低要件として示されている。ペーパーカンパニーや、外国メーカーの名義だけの現地法人を排除することが明記されている。
外国のIORには、次の要件が課される(大統領令の指示)。
- 低額貨物の簡易通関(informal entry)が使えない
- 継続保証(continuous bond)が使えない(CBPが認めた場合を除く)。単発の保証、米国内の有形資産、またはCTPAT認定を受けた通関業者経由での申告が必要になる
- CTPATの認定(対象となる場合)、またはCTPAT認定ブローカーの利用
- good standing(良好な状態)の維持。CBPはコンプライアンス履歴などで階層化し、良好でないIORは輸入やブローカーの指名ができない
- 強化された審査(継続的な再審査)
- 開示の拡充(サプライチェーン、製造者の識別子、外国の税務IDなど。ANPRMで意見募集中)
日本のメーカーにとっての意味
ここが、いちばん誤解されやすい。「米国法人を作れば米国の輸入者」とは限らない。大統領令の定義では、法人は支配的受益者が米国市民・永住者であるか、米国に相当の不動産を持つ必要がある。日本の親会社が保有する米国子会社は、この定義にそのまま当てはまらない可能性がある。
影響は、売り方で変わる。
- 日本から直送(小口): 簡易通関が使えなくなる影響が最も大きい。1件ごとのボンド要件(NPRM)も重なる
- FBAへの一括入庫: 正式通関(formal entry)なので、ボンド・有形資産・CTPATブローカーの要件が効く。継続保証が使えない場合、単発ボンドへの切り替えコストが発生する
- DDP(売り手が関税込みで売る): 誰がIORになるかの設計が、そのままリスクになる。「関税込み」の契約でも、輸入者としての責任は消えない
確認すべきは、契約書の文言ではなく、Form 5106に書かれているIORの実態だ。名前・EINや番号・住所・電話・メールがそのIOR本人のものになっているか。9月18日から、ここが不正確だと番号ごと無効になる。
今すぐやること
- 自分の荷のIORが誰かを、荷ごとに確認する。 フォワーダー・通関業者に「私のIORは米国事業者か、海外事業者か」と聞き、回答を書面で残す
- Form 5106の情報を最新化する。 住所・電話・メール・EINが実際の事業者と一致しているか。ブローカーに有効な委任状(POA)があるか
- 海外IORなら、新要件への準備状況を通関業者に確認する。 資産・ボンド・CTPAT・事業継続性の4点
- ボンドの種類を確認する。 継続保証に依存している場合、単発ボンドへの切り替えコストとリードタイムを試算する
- 意見募集の期限を押さえる。 サプライチェーン開示のANPRMは12月1日、低額貨物のNPRMは12月7日。業界団体経由でも意見を出せる
- 代わりの設計を比べる。 米国法人をIORにする、CTPAT認定ブローカーを使う、直送から一括輸入に変える。どれも「タダ」ではないので、着地コストで比べる
今回のルール変更は、輸入者の責任を、逃げられない形にするためのものだ。アメリカに資産がない会社は、これまでより厳しく見られる。
日本のメーカーにとって大事なのは、自分の荷物の輸入者が誰かを、今すぐ確認することだ。名前を確認するだけで、対策の第一歩になる。
よくある質問
Amazonから通知が来たが、今すぐ何か変わるのか?
通知時点で現在の輸入業務は通常通り。ただし2026年9月18日から、不正確なIOR番号の無効化は始まっている。
米国法人を作れば、米国の輸入者になれるのか?
法人は米国法に基づく設立と米国所在に加え、支配的受益者が米国市民・永住者か、米国に相当の不動産を持つ必要がある。
まず何を確認すればいいのか?
荷ごとにIORが米国事業者か海外事業者かを確認し、Form 5106の住所・電話・メール・EINが本人のものかを見る。
輸入者(IOR)の整理は、越境ECとは何かの「始める前に決める4つ」で全体像と一緒に確認できる。
まとめ:今週やること
今週やること
- 01IORの名義を荷ごとに確認する米国事業者か海外事業者か。回答は書面で。
- 02Form 5106の情報を最新化する住所・電話・メール・EINが本人のものか。
- 03ボンドとCTPATの準備状況を聞く海外IORなら資産・ボンド・CTPAT・継続性。
- 04意見募集の期限を押さえるANPRMは12月1日、NPRMは12月7日。
- 05代替案を着地コストで比べる米国法人IOR・CTPATブローカー・一括輸入。
※数字の出典:https://www.federalregister.gov/documents/2026/06/10/2026-11595/strengthening-customs-enforcement